創業者との伴走ストーリー / ハイボット CEO ミケレ グアラニエリ インタビュー
「創業者との伴走ストーリー:Side by Side Stories」では、みらい創造インベストメンツが支援するスタートアップの創業者たちが、いかにして事業として形にしていくのかを、リアルなエピソードを通じてお届けします。
今回は、従来の常識を覆すインフラ点検用のヘビ型ロボットを開発し、現場作業者を危険から解放することを目指しているハイボット株式会社(https://hibot.co.jp) CEO ミケレ グアラニエリさんにお話を伺いました。

留学生から起業家へ、東工大で芽生えたビジョン
――まずは、自己紹介と現在の事業について教えてください。
私はイタリア出身で、2001年に文部科学省の奨学金を受けて来日し、東京工業大学(現東京科学大学、以下、東工大)に留学しました。その後、2004年にハイボットを創業し、現在はCEOを務めています。当社では、インフラ設備の点検・補修を行うための特殊なロボットを開発し、それを活用したサービスを提供しています。
――この事業アイデアは、どのような問題意識や経験から生まれたのでしょうか?
もともと、ロボットで社会課題を解決したいという想いが強くありました。東工大での研究でもレスキューロボットなどを手掛けましたが、実際に社会に役立つソリューションとして形にしていくには、より現場に根差したロボット開発が必要だと感じていました。
ハイボットは、単にロボットを作るのではなく、点検や補修の現場で実際に使える「エンドツーエンドのソリューション」としてのサービス提供を目指しています。
――事業を通じて、どのような社会の姿を目指していますか?
英語で言えば「Making the world a safer place with robotics」ですね。ロボットによって人々の安全を守ることが、私たちの最大の目的です。インフラ点検には多くの危険が伴います。高温・高所・狭小空間・腐食など、危険な作業をロボットが代替することで、事故を未然に防ぎ、人命を守ることができます。
実際に、工場のタンク内部点検では人が入っていた場所に、今は私たちのロボットが入っています。現場の危険性を大きく軽減する成果を実感しています。

転機となったピボットと伴走支援
――起業前のキャリアや研究と、現在の事業にはどんな接点がありますか?
大学時代から、ロボット工学と制御理論に強い関心がありました。東工大では広瀬研究室に所属し、モノづくりの現場でハードもソフトも一人で担うスタイルの中で実践的に学びました。研究者として深掘りしながらも、「社会実装」の視点を持っていました。
また、父がビジネスをしていた影響もあり、自然と起業を志すようになりました。研究で得た知見を社会に還元したいという想いから、会社設立に至りました。起業の際には、仲間を募るところから始まり、ビザや法制度の壁を一つひとつ乗り越えていきました。当時、東工大で外国人留学生が起業するのは前例のないことだったので、周囲の理解を得ることも簡単ではありませんでした。
――最初はアイデアが漠然としていたと思いますが、どのようにビジネスに仕立てていきましたか?
創業当初は、自分たちの技術力を活かして、蛇型ロボットなど様々なプロトタイプを開発していました。YouTubeで公開したビデオをきっかけに注目を集め、数々の実証にも挑戦しましたが、収益化の道筋は見えていませんでした。
2015年に初めて外部から資金調達を行い、顧客ニーズと自社の技術の接点を見直したことで転機が訪れます。顧客は「ロボットが欲しい」のではなく、「点検データ」が欲しいのだと気づいたんです。この気づきを起点に、単なる製品提供からRaaS(Robot as a Service)モデルへの転換を決断しました。
――ピボットは大きな決断だったと思います。特に困難だった局面と、それをどう乗り越えたか教えてください。
はい、ピボットは技術だけでなく、会社のカルチャーにも大きな影響を及ぼしました。当時の社員の中には従来の「ハードウェア製造企業」としての考えが根強く残っており、新しいビジネスモデルへの理解がなかなか進みませんでした。
その中で、社内の意思統一やマネジメントの刷新を進めるうえで、みらい創造インベストメンツの存在が大きかったです。高山さんをはじめ彼らの伴走により、経営ビジョンの再構築、役員体制の再設計、さらには人材の再配置まで、実行に移すことができました。
――みらい創造インベストメンツとの出会いと支援内容について教えてください。
出会いは2019年、蔵前ベンチャーのネットワークを通じてでした。最初の面談では、私たちの現状を深く理解しようとする姿勢が印象的でした。単なる資金提供者というよりも、「一緒に未来をつくる仲間」として関わってくれました。
事業戦略だけでなく、大学や企業との連携支援、大手リース会社の紹介など、資本と事業の両面から非常に幅広くサポートを受けています。さらに、経営上の悩みを誰にも相談できないとき、いつでもフラットに意見を交わせる存在でいてくれたことが、何よりの支えになりました。

世界のインフラを支える未来へ
――今後、どのような成長や展開を構想していますか?
私たちが目指しているのは、単に点検作業をロボットで自動化することではありません。もっと本質的な価値は「インフラの見える化」と「故障の予兆検知」を通じて、社会全体の安全性とコスト効率を根本から変えることにあります。
現在、ハイボットではロボットを通じて取得したデータを蓄積し、それを解析することで、どの設備がいつ、どのような劣化状態にあるのかを可視化する仕組みを開発しています。これは、単なる点検の効率化にとどまらず、設備保全における「予兆保全」「予防保全」のレベルを引き上げるものです。
こうした仕組みを通じて、点検頻度や修繕コストを最適化し、限られた人員でも持続可能な社会インフラの維持が可能になります。私たちは、ロボット×データ×AIを融合させたプラットフォーム構築に取り組んでおり、将来的にはそれをインフラ保全の“業界標準”として定着させていくことを目指しています。
この構想は、日本国内だけで完結するものではありません。すでに米国やヨーロッパ、アジアの企業と連携し、現地インフラへの適用実証を進めています。グローバル展開を前提とした開発を続けており、今後は国境を越えたインフラDXの中核企業として成長したいと思っています。
――注力していきたい業界や分野はありますか?
現在は、オイル・ガス・ケミカルといった重工業系の設備分野に重点を置いています。これらの領域は、高温・高所・狭小空間・腐食環境など、人間にとって危険な作業が多く残されている業界であり、我々のロボティクスが最も貢献できる分野です。今後は食品工場、ゼネコン、原子力発電所といった危険領域を含む産業インフラにも領域を拡大していきます。どの業界でも共通するのは、「安全性」と「生産性」の両立が課題になっていることです。私たちのソリューションがそれを可能にします。
――最後に、これからディープテックに挑む方々へメッセージをお願いします。
ディープテック領域での挑戦は、技術・市場・制度のすべてにおいて時間がかかり、リスクも大きいです。ですが、大きな社会インパクトを目指すからこそ、その挑戦には価値があります。一人で悩まず、信頼できるパートナーと未来を描きながら進んでいくことが重要だと思います。
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