創業者との伴走ストーリー / 株式会社TriOrb 代表取締役CEO 石田 秀一 インタビュー
「創業者との伴走ストーリー:Side by Side Story」では、みらい創造インベストメンツが支援するスタートアップの創業者たちが、いかにして事業として形にしていくのかを、リアルなエピソードを通じてお届けします。
今回は、球を用いた独自の全方向移動機構によって“移動の常識”を根底から変えようとしている 株式会社TriOrb 代表取締役CEO 石田秀一さん、そして社外取締役として伴走支援を行うみらい創造インベストメンツ 高橋遼平さんにお話を伺いました。研究の出発点から産業実装への視点転換、ビジョン「Holonomic World」に込めた思想、そして事業の節目で示された伴走支援の核心に迫ります。

研究の芽が産業実装へ向かう転換点を迎えた瞬間
——これまでのご経歴と、TriOrb創業に至るまでの道のりを教えてください。
石田CEO:
九州工業大学の学生だった私は、球を使った全方向移動機構という、当時は“奇抜”と見られがちなテーマに魅了され、研究に没頭しました。球はあらゆる方向に回転できる構造、また回転軸を任意に取ることができ、進行方向を機構的に限定しないという特性を持つ。ここの単純にして強力な概念が、ロボットの自由度を劇的に高められるのではないか——そう考えたのが始まりでした。
博士取得後は産業技術総合研究所で約10年間、製造現場の課題に向き合い続けました。異常検知、データ解析、工程改善。多くの工場を訪れる中で痛感したのは、技術は“現場で動いて初めて価値になる”ということ。机上の理論やシミュレーションだけでは、製造現場の厳しい環境には到底太刀打ちできない。
「研究を社会に届けたい」
「現場で本当に使える技術をつくりたい」
その強い思いが積み重なり、2023年2月、TriOrbを創業しました。研究者として磨いた知識と経験を、事業として社会に実装するための一歩でした。
——球駆動式全方向移動機構を研究し始めた動機は?
石田CEO:
球駆動式全方向移動機構の研究は、大学時代から続けてきたテーマですが、最初から「事業にする」という発想があったわけではありません。JSTの事業化プログラムに参加した2019年頃、研究室目線で「使えるはずだ」と考えていた技術が、実際の現場では求められていないことに気づきました。その反省から、自分が最も深く理解している“製造現場のリアルな課題”と移動機構技術を結びつけるべきだと考えるようになりました。研究としての関心と、現場でのロボティクス活用経験が重なった瞬間に、「これは社会実装できる」という確信が生まれ、起業へ踏み出す原動力になりました。

現場で止まらず動き続けるロボティクスが生み出す新しい価値について
——どの点が顧客から最も評価されているのでしょうか。
石田CEO:
顧客が特に重要視しているのは、「とにかく止まらない」という点です。高精度や高耐荷重といったスペック以上に、荒れた床面・滑りやすい素材・狭い通路など、現場の“理想から遠い環境”でも安定して動き続けること。その再現性こそが、TriOrbの最大の価値だと認識しています。ロボットが1台止まると、ライン全体が乱れ、作業者の負荷も跳ね上がる。スタートアップであろうが現場で止まらないロボットに正面から向き合うことを、創業時から大切にしてきました。
——研究者としての道から「事業化」へ意識が向き始めたきっかけは?
石田CEO:
産総研で見続けた“現場のリアル”です。
技術者はどうしても「できること」に意識が向きがちですが、現場が求めるのは「困っていることが解決されるかどうか」。この非対称性を埋めなければ、技術は永遠に採用されないと悟りました。技術を社会に実装することこそ、研究者としての責務だと気づいた瞬間でした。
——ビジョン「Holonomic World」にはどんな思想が込められているのでしょうか。
石田CEO:
Holonomic World は、“すべての移動制約が解放された世界”を意味します。
移動制約がなくなれば、工程設計やレイアウト、人とロボットの協働のあり方までも根本から見直すことができる。これは単なる技術コンセプトではなく、TriOrb が「どんな未来を実現しようとしているのか」を明確に示す指針であり、事業の方向性を定める軸として機能しています。
——北九州で事業をスケールさせる意義をどのように捉えていますか?
石田CEO:
北九州には高い技術力を持つ人材が多いにもかかわらず、挑戦機会が限られていると感じています。地元から世界へ挑む企業が生まれれば、雇用・誇り・産業の循環が生まれる。上場は資金調達の手段であると同時に、地域発で世界と戦う“新しい産業モデル”を示す行為でもあると考えています。



TriOrb BASEの開発風景(八幡オフィス)
世界観の言語化と伴走支援が事業の未来を形づくった背景
——みらい創造インベストメンツの印象に残っている支援は何でしょうか。
石田CEO:
TriOrb にとって最も価値があったのは、みらい創造インベストメンツの高橋さんが事業をつくる思考プロセスそのものに伴走してくれたことです。PoC 設計や事業計画のレビューといった実務的な支援ももちろん助かりましたが、それ以上に大きかったのは、技術と構想の“曖昧な部分”を一緒に掘り起こし、言語化し、構造として整理していくプロセスでした。 研究者はついスペックや原理から語りがちですが、「誰のどんな切実な課題に応えるのか」「なぜTriOrbがやるべきなのか」「その技術が世界をどう変えるのか」という根源的な問いを、伴走しながら投げ続けてもらったことで、やるべきことの解像度が劇的に上がりました。
高橋執行役員:
中でも象徴的だったのが、創業2期目の政府系大型助成事業への参画に向けたプロジェクトです。会社の事業将来像の明確化が求められる中、フレキシブルのファブつくるというコンセプトをつくり、これらを徹底して深掘りし、点在していた情報が有機的につながる瞬間がありました。まさに点が線になり、線が面になる感覚でした。スペックではなく「世界をどう変えるのか」を語れるようになったことで、TriOrb の事業は次のステージに進みました。あの議論は、私自身も強く記憶に残っています。
石田CEO:
高橋さんはVCというより、“意思決定の解像度を上げ、未来への踏み出しを支える伴走者”という表現が正しいと思っています。私たちの価値観と戦略を一致させるプロセスに、真正面から向き合ってくれたパートナーです。
——最後に挑戦する研究者・起業家へメッセージをお願いします。
石田CEO:
研究も事業も、本質は仮説検証です。異なるのは、検証のフィールドがラボから社会へと拡張され、同時に、事業としての結果に責任を持つ範囲が大きくなるという点にあります。その意味で、研究者が起業に向かないということはありません。
私はよく、「技術を語る前に、その仮説が本当に自分の腹に落ちているかを問い直せ」と言っています。机上で組み立てただけの想像は、仮説にすらなりません。現場に身を置き、自分の仮説が成り立つのかを身体で確かめて、初めて言葉に重さが宿ります。
情報だけで分かった気になる時代は終わりました。
挑戦するなら、まず現場に飛び込んでください。ネジ一本を締める難しさに向き合い、自分の身体で理解した者だけが、技術を本当に社会に実装できます。
現場に行け。そこからすべてが始まります。
