【特集記事】配合するから“届ける”へ。有効成分の価値を引き出すナノ粒子技術

スタートアップの成長ストーリー /  NOVIGO Pharma株式会社 代表取締役 石濱 航平 インタビュー

「Side by Side STORY」では、みらい創造インベストメンツが支援するスタートアップの挑戦と成長の軌跡を紹介します。

今回取り上げるのは、九州大学発のディープテック・スタートアップ、NOVIGO Pharma株式会社です。同社は、独自のナノ粒子デリバリー技術を活用し、化粧品・医薬品領域における「有効成分を必要な場所へ届ける」という課題に取り組んでいます。皮膚に届きにくい成分を活用した高機能化粧品の開発から、細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EV)と呼ばれる体内由来のナノ粒子を用いた医薬品成分の送達技術の研究開発まで、NOVIGO Pharmaがめざすのは、これまで十分に活かしきれなかった成分や治療分子の可能性を引き出すことです。

今回は、代表取締役の石濱航平さんに、事業の現在地、技術の独自性、研究成果を社会実装する難しさについて伺いました。

“届ける”という課題から、化粧品と医薬品の可能性を広げる

——NOVIGO Pharmaの事業概要について教えてください。

石濱代表:
私たちは、「届けたい成分を、届けたい場所へ、より効率的に届ける」ためのナノ粒子デリバリー技術を開発・提供する九州大学発のディープテック・スタートアップです。

化粧品や医薬品の世界では、優れた有効成分や治療分子があっても、皮膚や体内の目的組織に十分に届かなければ、本来の価値を発揮することができません。当社は、この“届ける”という課題に対して、独自のナノ粒子技術で解決をめざしています。

現在は、大きく二つの領域に取り組んでいます。一つは化粧品領域です。ビタミンC誘導体やナイアシンアミドのように、通常は皮膚のバリアによって吸収されにくい水溶性成分を肌の角質層の奥まで届けやすくする技術を活用し、高機能なスキンケア製品の開発を進めています。

もう一つは医薬品領域です。細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EV)、いわゆるエクソソームとしても知られる体内由来のナノ粒子を活用し、抗体医薬やペプチド医薬などの治療分子を目的の部位に届ける薬物送達システムであるドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)の研究開発を進めています。


——現在、特に注力している領域はどこでしょうか。

石濱代表:
現在、特に注力しているのは、化粧品領域における高機能化粧品の開発です。近年、化粧品市場では、単なる使用感やブランドイメージだけでなく、機能性を重視する動きが強まっています。一方で、効果が期待される成分であっても、実際には皮膚へ十分に浸透しにくいものも多くあります。

私たちの高浸透技術は、これまで浸透性に課題があった成分や、従来であれば製品化の選択肢に入りにくかった高機能成分を、新たな形で活用できる可能性があります。こうした背景から、化粧品メーカーの皆様からも多くのお声がけをいただいています。

インタビューに答える石濱代表

皮膚になじむ設計と、体内の“運び屋”を活用する技術

——NOVIGO Pharmaのナノ粒子デリバリー技術には、どのような特徴がありますか。

石濱代表:
当社の技術を一言で説明すると、「有効成分を小さなカプセルのような形にして、目的の場所まで届けやすくする技術」です。

化粧品領域では、そのまま肌に塗っても皮膚のバリアを通過しにくい成分をナノサイズの粒子にし、肌なじみの良いオイルとともに使用することで、成分を肌へ届けやすい形に変えています。皮膚は水を弾く一方で、油分とはなじみやすい性質があります。そのため、水溶性成分を油になじみやすいナノ粒子として設計することは、皮膚浸透の観点で合理的なアプローチだと考えています。

医薬品領域では、EVを活用しています。EVは、もともと私たちの体内で細胞同士の情報伝達を担っている小さな粒子です。いわば、体内に備わった“運び屋”のような存在です。当社は、このEVに医薬品成分を搭載する独自技術を開発しています。EVという“天然の配送トラック”に、抗体医薬やペプチド医薬などの“荷物”を載せて、目的の臓器や組織へ届けるイメージです。


——従来のDDS技術と比較して、どのような優位性がありますか。

石濱代表:
大きな特徴は、幅広い成分に応用できるプラットフォーム技術であることです。特定の成分だけに限定されるのではなく、多様な有効成分を届けるための技術として展開できる点に強みがあります。

化粧品領域では、針などを用いる侵襲的な手法ではなく、塗布によるアプローチでありながら、皮膚の構造に合った形で成分を届けることをめざしています。

医薬品領域では、EVを作製・回収した後に薬効成分を搭載する“ポストローディング”型のアプローチを開発しています。一般的には、EVに薬効成分を載せるために細胞を遺伝子改変したり、物理的に穴を開けたりする方法が検討されますが、当社はEVが本来持つ性質を活かしながら、薬剤を搭載する技術に取り組んでいます。人工的に大きく改変するのではなく、体内にもともと存在する仕組みを活用する。

そこに次世代DDSとしての可能性があると考えています。

技術を単一の研究テーマではなく、プラットフォームとして捉え直した転換点

——創業から現在までを振り返って、経営者として最も大きな転換点は何でしたか。

石濱代表:
大きな転換点は、当社の技術を単一の研究テーマとしてではなく、「化粧品と医薬品の両方に展開できるデリバリープラットフォーム」として捉え直したことです。創業当初は、医薬品領域の研究開発に丁寧に取り組んでいました。一方で、技術の価値を対外的に示すことや、事業として実績を積み上げるという視点は十分ではありませんでした。

しかし、経営者として事業全体を俯瞰する中で、当社技術の本質は、“届けにくい成分を届ける”という非常に汎用性の高い課題解決にあると考えるようになりました。その価値を社会に伝えるためには、研究開発を進めるだけでなく、実際の製品や共同開発を通じて実績を作り、技術の有用性を具体的に示していくことが重要です。

化粧品領域では、比較的早い段階で社会実装が可能であり、顧客や市場からのフィードバックを得やすい。一方で、医薬品領域では時間はかかるものの、成功した場合の社会的インパクトは非常に大きい。この二つを切り分けるのではなく、同じ技術基盤から連続的に展開していく方針にしたことは、会社として大きな転換点でした。

中長期の研究開発と、短期の事業実績を両立するための伴走

——みらい創造インベストメンツとの接点や、伴走支援について教えてください。

石濱代表:
みらい創造インベストメンツ様とは、私が北九州高専の出身者であることから、たまたま当時のご担当者と接点が生まれたことがきっかけでした。そこから、当社の大学発技術の価値や、ディープテックとしての成長可能性に関心を持っていただきました。

特に印象に残っているのは、単に資金を提供する投資会社というよりも、当社の技術や事業の可能性を深く理解しようとしてくださった点です。加えて、ディープテック企業が中長期の研究開発に注力する中で重要となる、短期的な実績づくりや売上のトラクションについても重視し、それらを事業計画に組み込んだシナリオづくりをサポートいただきました。

出資後も、資金面だけでなく、事業開発や他の投資家・事業会社との接点づくりなど、さまざまな面で伴走いただいています。当社のように、化粧品と医薬品という異なる時間軸の事業を両立させていく会社にとって、中長期的な視点で支援いただける存在は非常に心強いです。


“届けられないから諦めていた”成分や治療分子を、必要な場所へ

——今後、NOVIGO Pharmaとして実現したい世界を教えてください。
石濱代表:
当社は、ナノ粒子技術の専門家として、大胆な発想とアプローチで新たな治療・ヘルスケア領域に挑戦しています。実現したいのは、「届けられないから諦めていた成分や治療分子を、必要な場所に届けられる世界」です。

化粧品領域では、これまで浸透性の課題によって十分に活用しきれなかった成分に、新しい可能性を生み出したいと考えています。医薬品領域では、これまで薬剤を届けることが難しかった組織や疾患に対して、新しい治療アプローチを提供できる可能性を追求していきます。

将来のパートナー企業の皆様に対しては、もし「良い成分があるが、届かせ方に課題がある」「既存技術では十分な効果が出ない」「新しい製品価値や治療アプローチを作りたい」という課題があれば、ぜひ一緒に検討させていただきたいです。

私たちは、大学発のサイエンスを起点にしながら、研究で終わらせるのではなく、実際の製品や治療法として社会に届けることをめざしています。

日本発のデリバリー技術を、世界へ。

NOVIGO Pharmaは、化粧品と医薬品の両領域で、ナノ粒子デリバリー技術の社会実装に挑戦し続けます。